村田沙耶香さんの「地球星人」を読んでみた。
その感想を書いてみる。
地球星人のあらすじ
恋愛や生殖を強制する世間になじめず、ネットで見つけた夫と性行為なしの婚姻生活を送る34歳の奈月。夫とともに田舎の親戚の家を訪れた彼女は、いとこの由宇に再会する。小学生の頃、自らを魔法少女と宇宙人だと信じていた二人は秘密の恋人同士だった。だが大人になった由宇は「地球星人」の常識に洗脳されかけていて……。
引用元:Amazon
芥川賞受賞作『コンビニ人間』を超える驚愕をもたらす衝撃的傑作。
社会に馴染めず常識を疑いながら生きていく人達の物語である。
子供の頃の思い出が蘇る
本作は主人公の奈月が小学5年生の夏休みに、親戚の家を訪れるところから始まる。
読んでいると、親戚一同が集まった時の情景を思い浮かべながら、自分が子供の頃を思い出す。
あの頃は、学校が夏休みや正月休みになる度に両親に連れられて親戚の家に遊びに行っていた。
向かう車の中では、楽しみ半分、億劫さ半分だった。
年に1〜2回しか会わないので、会うたびに余所余所しくなり緊張をするからである。
でも、遊んでいるうちに緊張はほぐれて楽しくなる。
そして帰る間際になると悲しくなる。
次に皆んなに会えるのは半年後や1年後で、それまでの間、また学校生活に耐えないといけないと思うからだ。
学校生活に耐える、とは何か。
学校生活には楽しいこともあるが、無ければ無い方が嬉しいものだった。
嫌いなクラスメイトに会わないといけない、苦手な授業を受けないといけない、皆んなの足を引っ張らない様に頑張らないといけない。
自分が何かをできないとか、失敗するとか、そういったことが許されないという緊張感のある学校生活が嫌いだった。
その原因は人間関係だったと思う。
親戚の家では皆んなが優しいが、学校生活では気が合わない人間と関わらざるを得ずに人間関係が億劫。
楽しい時間より辛い時間の方が圧倒的に長い。
子供ながらに、何故生きるのはこんなに辛いことなのかと思っていたのを思い出す。
本作を読みながら、子供の頃の楽しかった思い出に浸ると同時に、人間社会への納得感のない辛さもしみじみと感じた。
人間とは何なのかを考えさせられる
本作では、人間は人間工場で生産されるという。
恋愛や結婚をして、子供を産むことが幸せであると工場でインストールされる。
実際に我が家も1人目が生まれたと思ったら、周りから2人目は作らないのかという話があったものだ。
まぁ単純に家族が増えて賑やかになる、孫の顔が見たい、などそういった理由だとは思うが、その期待に応えられない後ろめたさを感じたものである。
2人目を作らないのには理由がある。
生活が苦しくなるから。
子育てが大変だから。
こう思うのは我が家だけではないと思うが、そう考えると我々もまた、本作に登場する奈月や旦那の智臣、由宇と同じなのかもしれない。
本作を読んでいると、人間は自分の意思で生きていないのかもしれないと思うが、その点ですごく納得ができる。
私は以前から、人間が生まれるのは自分の意思ではない、という結論に辿り着いている。
人間が生まれるのは紛れもなく親の意思である。
自分の意思で生まれる人間はいない。
しかし、昨今では人々は生活が苦しくなるから子供を作らないという意思を強く持ち始めた。
>> 楽しむことがすべて!人生自体に意味はないし悩む価値もない!
人間の男は、家族のために馬車馬のように働くのが務めだという常識をインストールされる。
私もその常識に従って生活を送っている。
でも私は日々の仕事がすごく辛い。
辞めれるものなら辞めたい。
そんな仕事を誰の意思でやっているのだろうかと疑問に思う時がある。
自分の為、家族の為、社会の為、そういったことを理由に自分を納得させて働いているが、意思とかそういうことではなく、常識として働かないといけないわけで。
しかし、自分の中にある、楽になりたいという意思が強く主張をする。
生きる手段は今の辛い仕事だけではないだろうに、それでも頑なに今の仕事や生活を続けようとする。
苦しいと思いながらも、今の環境から抜け出そうという発想には至らないのである。
現代人はインストールされた常識のもと動いているものの、楽になりたいという意思が強くなってきたように思える。
まとめ
最近、どうも日々の生活に疲れている…。
そんな時にふと目にとまったのが、この地球星人。
村田沙耶香さんの作品で、以前にコンビニ人間を読んだことがある。
コンビニ人間もまた独特な目線で人間社会を描いている作品だった。
そんな記憶があったのと本作のあらすじを読んで、地球星人もまたそんな作品なのだろうと期待をして購入した。
上手く言葉に出来ないが、何かこう落ちるところまで落ちて楽になりたい、というような気持ちであったり、日々愚痴を言わない様に抑えている息苦しさを素直に開放したかった。
たまには「もうしんどい」と言いたい。
それを満たしてくれる村田沙耶香作品を読んで、誰に遠慮をすることなく「それそれ!」と共感出来るものに触れたかったのだと思う。
日本は秩序のある社会であり平和と感じるが、そうは言ってもやっぱり弱肉強食の社会なんじゃないかと思う。
己の利益のために、人が人を苦しめる社会。
皆が助け合い、親切をすれば戦争はなくなるという当たり前のことが成り立たない社会。
私は、そういう社会で生きていると常々思っている。
生きていて穏やかな気持ちであることは少ない。
常に何かに苦しめられている。
それに疲れた時に読みたくなった作品だった。
読んだからといって救われるわけではないが、夢中になって読んでいると悩むことを忘れられるし、読み終わった時に「しゃーない、頑張ろう」と思えた。
こんなことを思っているなら、読んでみると面白い作品だと思う。